2月21日に摂南大学で開催された日本多読学会の関西多読新人セミナーのメモなど(後編)です。
●「多読プログラムの成否要因と実践上の工夫」(西澤一先生)
長期(5〜7年)の多読プログラムを行っている豊田高専のプログラムについて、特に成果が上がらなかった学生に見られる傾向と対策についての発表。
多読授業の成果が出ない学生というのは、「そもそも本を読んでいない」というのを別にすると、おおまかな内容も理解できないようなレベルの本を読んでいる(極端に難しいレベルの本を背伸びして読むキリン読みなど)。読書記録の内容*1や定期試験などでのリーディングテストの結果などからそのような傾向が見られたら、易しい本の固め読みをさせることで理解度が上がる読み方に導くとのこと。
●「公立高校での3年間の多読授業」(宮本恵理子先生)
公立高校で多読授業の実践についての報告。予算などの制約がいろいろとあるなかでどのように多読用図書をそろえているか、音声はどのように活用しているかなどの工夫は、これから始めようという方には参考になりそう。
●大学での授業内外多読と教員の学びのプロセス(松田早恵先生)
会場となった摂南大学での取り組みについての発表。松田先生は、「英語の本(洋書)を読んだことがない」という学生の声を受けて教員の私物を使って学級文庫的に始めたところから、多読マラソンという現在も続けている授業外企画、多読に特化した授業に至っているとのこと。
学級文庫的に行っていた頃(2006年度)は、15〜20分の読書時間を授業内に設けていたそう。教員の個人蔵書を使っていたということで、「やさたく」方式の多読をするには図書のレベルは高め。また、語数は書き込んでいたものの、YLのようなレベル分けはしていなかったとのこと。
多読マラソンというのは、各学期にエントリーをしたら、対象となる本を学期末まで記録を提出しつつ最終週まで読書を続けるというもののよう。語数や冊数のしばりはないようだが、10万語以上読んだ学生は表彰状と副賞*2で健闘をたたえている。
多読に特化した授業では、前半はCALL教室を使って読み聞かせ・輪読やペア読み、聞き読みなど音声を使った活動を行い、後半は図書館での多読。前半での読書では、韻、コロケーション、多義語*3、視点の違い(例えば、「三匹のこぶた」では悪者にされているけれど、狼って本当に悪者かということ)、パロディ、愛すべきキャラクター、パロディ、聖書関連、季節ものなど、テーマに沿って選定した図書を使用。
多義語のテーマで使用したもの。Amelia Bedeliaはシリーズものだけれど、複数の人たちがイラストを担当しているので、本によって見た目の雰囲気ががらっと変わるのもおもしろい。
- Amelia Bedelia https://amzn.to/36Tq381
視点の違いのテーマで使用したもの。”The True Stories”はシリーズもので、私自身は巨人の視点に立った『ジャックと豆の木』を読んだことがあります。
- The True Story of the Three Little Pigs https://amzn.to/3LkscJ8
- The Three Little Wolves and the Big Bad Pig https://amzn.to/3wIT3KB
パロディのテーマで使用したもの。この絵はマドレーヌのシリーズを手がけている方ですね。
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- Holes https://amzn.to/3LgaMNA
季節もののテーマで使用した本。
- The Gift of Nothing https://amzn.to/36VdSrC
●「Before and After:多聴多読の導入と実践」(国重徹先生)
前任校で多読授業を始めた先生の授業実践、多読授業を導入したことで生まれた学生とご自分に起こった変化、ご自身が多読を実践するようになってあらわれた変化についての発表。このようなセミナーでは、学生の情意面の変化について聞くことはよくあるけれども教員の側の実感が率直に語られることは実はまれで、その点でも興味深いものでした。
発表のメモは、ここまで。
それから質疑応答のなかで気になった点として、文法を教えずに多読だけをすることに不安を示した先生(話しぶりから自分ではまだ多読を実践していないように思われる方)がいらっしゃいました。質問者の先生は、読めるようになるには文法をマスターすることが必須で、平易な英語を読み続けているだけでは複雑な文を処理できるようにならないと考えているのだろうと思われました。
多読授業で使用される図書をめくってみれば分かることですが、ORTなどのLRやGRは語彙や文法が段階的に難しくなっており、レベルを上げながら読み続けることで学習者は文法を体得していく仕組みになっています。参考書にあるような用語を使って説明はできないけれども、適切な形は分かるという状態になっていくのです。
英語学習に対して負のオーラを全開にして挑まれるという状態をなんとかしようと多読授業を導入して感じたのは、苦手意識を持つ子には英語に触れることがそんなに辛くはないと思わせることが先決だということ。英語に触れることが苦でなくなれば、必要に応じて文法を学ぶようにだってなる可能性はあります。readinessができるのを待てばいいなどと呑気なことが言えるのは、長期にわたって学生の面倒をみられるところで働いているからだからかもしませんが…。
多読授業に興味がある先生は、授業の方法論を学ぶことも必要だけれど、学生が易しい・読みやすいといって手に取る図書*4を読みまくることがそれ以上に大事だと思います。ここをしっかりやっていないと、学生の指導は厳しい気がします。
そんなこんなで、授業復帰に向けて今回のセミナーは良い刺激になりました。私自身の「やさたく」スタイルで授業を進め、学生にも学校にも好ましい結果が出すことができれば…と思います。
コメント
松田先生は、Amelia Bedeliaシリーズには語のリスト(アメリアさんの勘違いリスト)をつけているそう。取り組みやすさを上げる仕掛けだと思います。